【LWP008デザイナーインタビュー】後編:プロトタイプとライフワーク

【LWP008デザイナーインタビュー】後編:プロトタイプとライフワーク

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LIFEWORKPRODUCTS (以下LWP)初のデザイナーとのコラボレーションプロダクト、LWP008 Pen Stand。生活に溶け込みながらも、モノとしての引力を持つペン立てです。デザインを手がけたのは、プロダクトデザイナー鈴木元(すずき・げん)さんです。LWPデザイナーとは旧知の仲ということで、鎌倉にあるスタジオにて座談会のようにお話を伺いました。

 

インタビューの前編では鈴木元さんが参加されたきっかけについて、後編ではLWP008 Pen Standのデザインやライフワークについてお話をきいたようすをお届けします。(後編)


イラスト:阿部愛美(LWP編集部)、取材・文・撮影・編集:吉田恵梨子(LWP編集部)
  • 鈴木元(すずき・げん)さん

    GEN SUZUKI STUDIO代表。1975年生まれ。スタジオを自宅に併設し、生活とデザインを隔てないアプローチで、日用品や家具、家電など、毎日の生活のためのプロダクトデザインを国内外の企業と行っている。主なクライアントにハーマンミラー、無印良品、キャスパー、パナソニックなど。米クーパーヒューイット国立デザイン美術館永久収蔵など受賞多数。2023年英D&AD賞プロダクトデザイン部門審査委員長。

  • 宮沢哲(みやざわ・てつ)

    LIFEWORKPRODUCTSディレクター。国内外のインハウスデザイナーを経て、2007年にアンドデザインを設立。2011年よりNTTドコモ プロダクトデザインディレクターを兼務。

  • 南出圭一(みなみで・けいいち)

    LIFEWORKPRODCTSデザイナー。国内外のインハウスデザイナーを経て、2016年にアンドデザインに参加。国内外におけるデザイン賞受賞多数。


LWP008企画のきっかけは過去に鈴木さんが作られたプロトタイプと伺いましたが、そのプロトタイプはどのようにして生まれたのでしょうか。

鈴木 :

2004 〜2006年までロンドンのRCA*に在籍していたときに、自分の席でテープをたくさん重ねてペン立てとして使っていました。そのうち、ワークショプで移動するときにペンをテープごと持ち運べるよう工夫するようになりました。要するに底をつくったということですね。旋盤で削り出して、自分のためにつくった。それがひとつめのプロトタイプです。そのあと作り直しましたが、はじめに削り出してつくったので、かたちもその名残が残ってているんです。

*Royal College of Art。イギリスロンドンに所在する国立美術大学。
RCA時代のデスク。プロトタイプが生まれた場所。 

 

まさにプロトタイプですね。その後、製品化はされなかったんでしょうか。

鈴木 :

卒業制作のひとつとして出したことで雑誌に掲載され、製品化の打診をいただいたこともありましたが、製造条件が合わず断念したんです。20年前のものですけれど、自分でもいいなと思っていたので、できることならだれかつくってくれないか、そう思っていました。

宮沢 :

ここでプロトタイプを見たときに、どうデザインと向き合い、どんな時を過ごしていたのかが分かるような気がしました。さらには、生まれた経緯も含めてLWPらしいなと思ったんです。たくさん売るよりも、使いたいと思っていただける方へきちんと届けることがLWPの使命だと考えているので、今回はやらねばと思い、すぐにオファーしたわけです。

プロダクトデザイナー同士ならのではの感覚ですね。

さて、形について、削り出したプロトタイプからデータ化して製品にするまで、どのようにデザインをまとめていかれたのでしょうか。

鈴木 :

きっかけはテープの収納しにくさでした。丸くて転がりますし、さらには使うことでサイズも変わるので雑然とします。そんなとき、テープの内側のサイズ規格が等しいことに気づいたんです。そしてその内径は一般的なペン立てのサイズと等しいんですよね。おもしろい発見でした。

 

通常、モノには外形があるんですが、今回のPen Standの形はペン立ての外形ともいえるけれどテープの内側の形ともいえる。高さも一般的なテープのサイズから割り出している。つまり、僕はほとんどなにも規定していない。それは自分が目指しているデザインに近いんです。自分がコントロールするというよりも、もともとそこにある状況のなかに、すっと入ってしまうプロダクトをつくりたい。このPen Standはその象徴ともいえます。

Pen Standには鈴木元さんのデザインエッセンスが凝縮されている。

 

 

鈴木さんのデザインの根源を垣間見た気がしました。LWP008は素材も特徴的ですね。

鈴木 :

もともと樹脂のイメージがありました。かわいらしく素朴なものというか。でもこの形状をインジェクション(樹脂の射出成型)で製造するのは難しいんです。素材や成型方法を工夫したり、厚みを少し増したりと微調整しました。結果、よいものにできたと思っています。

南出 :

ゆるさ、ゆがみ、素朴でも無骨でもある、そんなところによさがあると思っています。製造段階では、そのゆるさのどこまでが魅力といえる範囲なのかを、元さんとともに探っていきました。結果、7トライ以上、調整を重ねましたね(笑)

すっきりとしているのに、どことなく素朴さやかわいらしさもありますね。形や素材、重量感含めそんな魅力があります。

鈴木 :

もともとは黒で検討をスタートしました。検討を進めるうちに、ポリスト―ン*を塗装レスにすることで出せる石の雰囲気の魅力を提案していただき、デザインの雰囲気とも合っているなと思いカラバリのひとつにしました。

*ポリストーン:高分子素材(ポリ)と石粉(ストーン)を混ぜ合わせることによって、プラスチックに近い精度と石に近い重さを有する素材。
カラー・素材感の試作トライ品。

 

 

宮沢 :

よいと思えるまでトライを重ねることで、まさに働く場の“道具”になりました。カッターやペンを入れてもぶれずに安定していて、言葉にしきれないような心地よさがあります。

ペンだけでなく生活の道具を入れても安定している。

 

 

鈴木さんのデザインとものづくりの試行錯誤がかけ合わさって、このLWP008 Pen Standのモノとしての引力は生まれたんですね。

ではLIFEWORKPRODUCTSにちなみ、最後に鈴木さんにとってのライフワークをぜひ教えてください。

鈴木 :

子どもの頃から、美しい物に興味がありました。それをいかに作り出せるかということをずっと考えているので、きっとそれがライフワークなんだろうなと思います。 

 

人がなにかを美しいと思うとき、その物だけを見ているわけではないと思うんですね。背景にあるものも一気に見ている。過去によいと思ったものが今はよく感じなかったりするのは、ものを取り巻く状況や、環境が変化しているからですよね。あるいは、環境は変わらなくても自分の視野が広がったからかもしれない。とても総合的な判断なのに、直感的に一瞬で感じてしまうところがおもしろい。デザインはその膨大な広がりの中から、ちょうどいい点を探すことだと考えると、興味は尽きないんですよね。

まさに前編冒頭でお話しいただいた、モノと環境のお話につながっていきますね。ぜひまたお話をきかせてください。本日はありがとうございました。

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