【スポーツシリーズ デザインのはなし】サイクリストのための4アイテム

【スポーツシリーズ デザインのはなし】サイクリストのための4アイテム

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新たに同時発売されたサイクリストのための4つのアイテム。その企画やデザインの裏側について、LIFEWORKPRODUCTS(以下LWP)のデザイナーのお二人にお話を伺いました。


イラスト:阿部愛美、写真:片桐才華、テキスト・編集:吉田恵梨子(LWP編集部)
  • 宮沢哲(みやざわ・てつ)

    「LIFEWORKPRODUCTS」ディレクター。国内外のインハウスデザイナーを経て、2007年にアンドデザインを設立。2011年よりNTTドコモ プロダクトデザインディレクターを兼務。

  • 南出圭一(みなみで・けいいち)

    「LIFEWORKPRODUCTS」デザイナー。国内外のインハウスデザイナーを経て、2016年にアンドデザインに参加。国内外におけるデザイン賞受賞多数。

サイクリスト向けに特長のある4アイテムを発売されました。企画のきっかけを教えてください。

宮沢 :

自分たちがLWPというブランドを立ち上げる上で、いつかデザインしたいと思っていたのが自転車用品でした。そのなかでも英国発の折りたたみ自転車である「ブロンプトン」は約50年間大きく形を変えず、小型折りたたみ自転車の原型のような構造を持ち続けているんです。その歴史に尊敬の念を抱いており、自分たちが「使いたい」と思えるブロンプトン専用の輪行バッグ(自転車を入れて持ち運ぶバッグ)を作りたいと思ったことがきっかけです。

折りたたみ自転車「ブロンプトン」

 


サンプルとともにお話しを伺う  

 


 

サイクリストでもあるご自身が「使いたい」と思えるものをという、LWPらしいスタートだったのですね。どんなふうにアイデアを広げていかれたのでしょうか。

宮沢 :

ブロンプトン専用の輪行バッグについて調べると、さすがブロンプトンという、こだわりの詰まったよいものが多く販売されていました。けれども、私はロードバイクに乗るのでついつい重さが気になってしまうんです。できるだけ強く丈夫で軽い輪行バッグがあれば、ブロンプトンの魅力を引き出し、もっと旅が楽しく、そしてさらに遠くまで行けると想像しました。そして、一緒に持っていくヘルメットバッグ、シューズバッグ、サドルバッグの企画を進めていきました。

4つのアイテム Photo by Goichi Kondo

 

 

輪行バッグをきっかけにほかのアイテムも生まれたのですね。

南出 :

自転車用ヘルメットについて社会的に着用が努力義務となるなか、外出先で外したときのヘルメットの持ち運びに課題があると感じていました。ヘルメットはかさばりますし、見た目もTPOにそぐわないこともあります。そこで、可能な限り軽くミニマルに持ち運ぶバッグを考えました。実は、サイクリングシューズバッグについては、宮沢の超個人的な要望として作ることになったと記憶しています(笑)

宮沢 :

そうですね(笑)ミニマルでなるべく重さのないシューズバッグを真に「使いたい」と思っていたので、このタイミングで1アイテムとしておこしました。

今回のアイテムすべてにダイニーマ生地が使われていますね。どのような経緯だったのでしょうか。

宮沢 :

極限の薄さでありながら高い引っ張り強度を持つ生地の種類はそう多くありません。サイクリストのなかで「軽さは正義」という言葉がよく使われますが、軽さと強さが際立つ、ダイニーマはまさにうってつけの素材でした。

先端素材のダイニーマ生地はかなり高価なものだと前にお話を伺ったことがありますが・・・

宮沢 :

そうなんです。数ある素材の中で価格が特段高いので、今回の輪行バッグのような大型商品に使うことは正直悩みました。けれども、自転車を真剣に楽しむ方向けの商品としていっそ徹底的にこだわるべきだろうと考え、贅沢に使いました。試作をしていくなかで半透明のダイニーマ生地を通して収納した自転車がやや透けて見えることに改めて気づいたとき、それが製品性能の高さを示す魅力のようにも感じられ、商品として「いける」という確信に変わっていきました。

自転車が透けて見えるほど薄く、そして軽く強いダイニーマ Photo by Goichi Kondo

 

 

 

では、それぞれのアイテムについてデザインで工夫された部分をうかがいます。まずは輪行バッグ(Bicycle Bag for Brompton with Dyneema®)について教えてください。

南出 :

かなりこだわったのでたくさんあります(笑)あえて1つあげるなら「軽さ」でしょうか。自転車に乗っているあいだは「荷物」になってしまう輪行バッグには軽さが求められます。「究極の軽さ」を追求するため、試作サンプルを作ってはスケールで測りを繰り返し、可能な限り生地の無駄を省きました。さらに、ストラップベルトの厚みや幅の選定に至るまで徹底的にバッグ本体の軽量化にこだわりました。結果、ストラップ付の輪行バッグとして最軽量193g(2025.4.21時点 アンドデザイン社調べ)を実現できたんです。

この大きさなのに缶コーヒーくらいの軽さしかないんですね。生地の無駄を省くというのは具体的にはどんな作業でしたか。

南出 :

ブロンプトンという無駄のない機能的な本体を、無駄なくジャストフィットで収めるため、折りたたんだブロンプトンの凹凸形状に合わせてバッグの構造をつくる立体縫製を採用しました。さらに、ジャストサイズでも自転車をバッグにスムーズに出し入れできるよう、大きく開く左右両引きのファスナー構造にしたんです。

軽さやサイズ感だけでなく、使い心地にも配慮されたということですね。

南出 :

はい、たくさんの工夫ポイントがあります。例えば、地面と擦れるため強度が必要な底面部には厚みのあるダイニーマ生地を使用し、それ以外は極薄で超軽量のダイニーマ生地を使用するという生地の使い分けをしています。あとは、スライダーやファスナーにイエローのストラップをつけることで、早朝や夕暮れ時のうす暗い中での作業が多い自転車旅でも、スライダーの位置やバッグの向きをすぐに分かるように工夫しました。ちなみに、ファスナーはYKK製の撥水ファスナーなので、突然の雨でも雨水が浸み込みにくいんです。

がばっと開いて出し入れしやすい Photo by Goichi Kondo

 

たくさんありますね。では、ヘルメットバッグ(Helmet Bag with Dyneema®)はいかがでしょうか。

南出 :

外しているときのヘルメットは荷物になってしまうんです。なので、ベルトの長さを3段階で調節できるストラップ構造にすることで、バックパックや自転車のフレームなど自由な場所に吊り下げて「手ぶら」で持ち運べるように工夫しました。また、バッグ口の幅を約350mmという幅広にすることで、凹凸があるサイクリング用のヘルメットでもスムーズに出し入れできるようにしました。バッグ口に向かって斜めに広がるシルエットがデザインの特長にもなっています。さらには、ベルトを留めるパーツには軽量で耐久性の高いTrimmers製のアルミフックを使っているので、丈夫でしなやかなナイロン製ベルトとの組み合わせで、堅牢で心地よい使用感になっているかと思います。

スムーズに出し入れできる形状 Photo by Goichi Kondo

 

 

続いて、サイクリングシューズバッグ(Cycling Shoes Bag with Dyneema®)について教えてください。

宮沢 :

自分自身を含め1gを削ることにこだわるサイクリストのため、極限まで軽くコンパクトなサイクリングシューズバッグを作ることに注力しました。片足ずつ互い違いに収納する独自の構造にしたほか、互いのシューズのクリート部品による傷つき防止のために厚地のダイニーマ生地で境界壁を作る構造にしたんです。

南出 :

使い心地という意味合いでは、こちらにもYKK製の撥水ファスナーを使い、濡れたシューズを入れてもバッグの外に水分が染み出しにくいように配慮しています。

互い違いに入れる構造 Photo by Goichi Kondo

 

 

サドルバッグ(Saddle Bag with Dyneema®)はいかがでしょう。

宮沢 :

必要最小限のアイテムを携帯するためのサドルバッグも、軽量化が重要だと考え、ダイニーマ生地を使い、且つ必要十分なコンパクトサイズにすることで約25gという究極の軽さに行きつきました。

南出 :

このサドルバッグは、雨具や工具など必要最小限な道具を携帯できる汎用性の高いアイテムでありながら、輪行バッグ(Bicycle Bag for Brompton with Dyneema®)をくるくると筒状に丸めて収納できるバッグとしても使えるようにするため、容量約1Lのシリンダー形状のデザインにしました。さらには、本体側面に大型のリフレクティブシートを備え、安全性に配慮したほか、デザインの特長としても美しくまとめることをめざしました。

シリンダー形状 Photo by Goichi Kondo

 

 

本当にサイクリストへの思いが詰まった4アイテムですね。ものづくりで苦労されたことなどはありましたか?

南出 :

そうですね。輪行バッグは、それぞれわずかにサイズが異なる3モデルをコンパクトに収めるサイズ感を探りながら10回以上の試作を繰り返していきました。その都度出来上がった試作を持って代官山のブロンプトンショップに何度も通い、実車をお借りしてフィッティングテストを繰り返したことは大変な作業でしたが、ショップ店員の方の意見も伺いながらデザインを詰めていく楽しい時間でもありました。

苦労を楽しさに変えられるのはデザイナー“あるある”ですね。

南出 :

ほかですと、サイクリングシューズバッグが思い出深いです。境界壁によって区切られた2つのスペースに左右のシューズを片側ずつ収納するという、これまでにない独自構造を実現させるため、縫製方法の検討にかなり長い時間を掛けました。また、ダイニーマ生地は一般的な生地に比べてハリがあり、これまでの経験上、生地を何度も裏返す縫製に向いていないと感じていたため、できるだけ少ない手数できれいに縫える方法を検討するために何十個も試作を行いました。

デザイナー自ら試作を繰り返す

 

初期の頃のプロトタイプ 作ってはフィッティングの繰り返し

試行錯誤のサンプルたち

 

 

 

どちらも、まさにLWPブランドらしい試行錯誤ですね。では最後にご自身もサイクリストであるお二人におすすめの使い方をおききします。

南出 :

もともと想定していた組み合わせではありますが、ブロンプトン専用輪行バッグとサドルバッグ両方を購入されているお客さまが多く、サドルバッグを輪行バッグの収納にお使いいただきご好評いただいております。通常サドルバッグはサドル下に取り付ける場合が多いですが、私たちの商品にはアルミフックで着脱可能なストラップと本体部の面ファスナー仕様のベルトをつけているので、工夫次第でサドル下だけでなく自転車本体フレームの様々な場所に取り付け可能です。ぜひ試してみていただけたらと思います。

デザイナーが日々通勤で使っているサドルバッグ

 

 

宮沢 :

真剣に自転車に乗っている方はもちろん、カジュアルに乗る方も含め、「軽さ」はとても重要です。輪行バッグ自体がかさ張ると持ち運ぶのに躊躇してしまうという話を聞くことがあります。私たちのブロンプトン専用輪行バッグはその軽さ・コンパクトさゆえ、駅のロッカーなどに預ける必要がなく、そのまま小さくまとめて持ち運べるんです。自転車本来の軽快感で、さらに遠くまでとついつい距離が伸びてしまうかもしれません。あと、個人的にはシューズケースは非常にこだわってサイズを追い込んだので、自転車のイベントなどにも重宝すると思います。

また、ぜひ都内でお使いいただきたいのはヘルメットバッグです。今は自転車を乗る際のヘルメット着用は道路交通法では努力義務ですが、私は比較的大きい事故時にヘルメットに何度か命を救われているので、たとえどんな状況でも自転車に乗るときは着用しようと思っています。ヘルメットは持ち運びにくいものでもあるので、ぜひヘルメットバッグをうまく使っていただき怪我を少しでも減らすことができたら嬉しいなと思っています。

さまざまなヘルメットでフィッティングを行ったヘルメットバッグ

 

サイクリストのためにとことん突き詰めるお二人

 

 

サイクリストのために考え抜かれた4アイテムですね。ありがとうございました。

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