毎日の暮らしのなかで使いやすい Double Wall Glass。そのデザインを手掛けられた北川大輔氏にデザインの裏側について、LIFEWORKPRODUCTS(以下 LWP)のデザインディレクターとの対談というかたちでお話を伺いました。前編ではデザインプロセスについてお聞きしていきます。
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北川大輔(きたがわ・だいすけ)
1982 年滋賀県生まれ。2005 年に金沢美術工芸大学を卒業。家電メーカーを経て、2015 年に株式会社 DESIGN FOR INDUSTRY を設立。関わる全ての人とともに分かち合える“喜び”を創り出すことを信条に、家具や日用品から伝統工芸、家電、ロボット、先端技術研究開発、新素材開発、ビジネス開発、都市ブランディングなど国内外問わず多彩な領域にて、“心地よい革新”という視点のもと、デザイン・クリエイティブディレクションを行う。
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宮沢哲(みやざわ・てつ)
「LIFEWORKPRODUCTS」ディレクター。国内外のインハウスデザイナーを経て、2007 年にアンドデザインを設立。2011 年より NTT ドコモ プロダクトデザインディレクターを兼務。
本日は北川さんが主催する DESIGN FOR INDUSTRY のスタジオに伺わせていただいています。とても窓が多くて明るいスタジオですね。スタジオを構えたきっかけを教えてください。
独立当初は自宅でやっていましたが、作業環境的に充実させたいと思い、10 年くらい前にこちらに移りました。自分が育った環境もあり、極力閉塞感がない抜け感のあるところがいいなと思っていました。
窓が多く解放感のあるスタジオでの和やかなインタビュー
だんだん事務所の使い勝手に愛着が湧いてきた頃でしょうか。
いえ(笑)
むしろ、ここ最近は家具のプロジェクトが増えてきたこともありスペースが足りなくなってきたので、そろそろ引っ越したいなと思っているところです。家具のデザインに携わることが増え改めて感じたのは、当たり前のことですが、デザインする環境がデザインに影響するということ。限られた空間で考えていると、その空間が持つスケールなどがデザインの枷になってしまう。イタリアや海外のプロジェクトも増えてきているので、広くて、ノイズのない新たな環境を探しています。デザインする上で作業環境はとても大切ですよね。いつもどのようにデザインされているか教えてください。
デザインする対象が決まっている場合は、まずとにかくそれについて調べます。その結果、このようにたくさんの本が集まったのですが。情報だけでなくできる限りモノも収集して、リサーチから徹底的に行なっていきます。
たしかにたくさんの本がありますね。ほかにはありますか。
対話ですね。クライアントととにかく話し、要望や課題を聞き出すだけでなく、裏表なく話していただける関係性を築きたいと思いながらいつもコミュニケーションを取らせていただいています。そのあとにコンセプトやテーマを検討し言語化していきます。それも感覚的にではなく極力だれもがわかる言葉で言語化していきますね。そのあとは手描きスケッチでアイデアを展開していきます。A4の紙とペンで。
なるほど。仕事のデザインを考える際は生活のなかで地続きとして考えますか。それともきっちり仕事と生活を切り替えるタイプでしょうか。例えば、僕はあえて意識下から外して頭の片隅に置いてぼんやり考える期間を設けたりします。
両方、と言えるかもしれません。基本的には四六時中、地続きで考えていると思います。けれども、僕はカレンダー通りに日々の生活を送るようにしているので、土日祝日は基本的には仕事の予定は入れません。ただただ家族との時間を過ごす。そのかわり、平日は際限なく地続きで考えている。そういう意味では平日と休日で切り替わっている、とも言えます。
ということは、自宅ではなくこのスタジオでデザインは生まれるということですね。
そうですね。様々なプロジェクトが同時進行するので、1 日のなかでも、複数のプロジェクトを連続して考えていきます。いまはこのプロジェクト、次にこのプロジェクトというように。自分はマルチタスクが性に合っているほうだと思っています。インスピレーションを受けて相互に影響し合っている部分もあるでしょうね。何層にも重なっているレイヤーを行ったり来たりしているイメージです。プロジェクトごとのフェーズによって波があったりはしますが、常に裏で複数のプロジェクトが頭のなかで動き続けているような感覚ですね。
言語化、スケッチの次のプロセスは、どのように進めるのでしょう。
基本的には一気に3Dモデリング に取り掛かりますね。よさそうなアイデアは数を限らず一通りデータ化します。そこでスケッチでは曖昧だった部分を明らかにしながら取捨選択していき、3Dプリンターやダンボールなどで幾つも何度もプロトタイピングを繰り返していきます。ただ、たまにスケッチから手作り模型に取り掛かることもあります。例えばこのクマのオブジェでは粘土をこねて造形を探りました。
KUMA / pirkamonrayke 3Dモデリングから入るんですね。
はい、多くの場合は、データ化して、3Dプリンターでプロトタイプを山ほどつくって徐々に最適解に近づけていきます。僕は途中のプロセスだろうが可能な限り精度を求めるタイプ。なので、デザインの最初期段階以外に手作りの模型はほぼ活用しません。手作りの精度を信用していないと言いますか。
プロダクトデザインは最終的には数字を伴う。それを細かく詰めたいという人と、そうでない人がいますよね。細かく詰めていくスタイルの場合、“終わり”を決めるのが難しそうですが、どう進めていくのでしょうか。デザイナーあるあるかもしれませんが、 8 割ほど完成が見えてくるとそのあとの工程は時間を掛けるほど、よいデザインになるので終わりが見えなくなりがちですよね(笑)
早い段階からデータ化し3D プリンターを多用することには、限られた時間のなかで可能な限り解像度をあげたい、という意図があります。例えば、近年携わってきたハサミのプロジェクトでいうと、まずはデザインの入り口を大きく3つに設定しました。その3つそれぞれに対して更に5 つにわけて考える。初めの入り口が3つのなかから1つに決まったら、そのなかの5つを更に分解して考えていくイメージです。
だんだんと分岐していくイメージですね。
そうなんです。トーナメントの逆パターン、樹枝状のような感じですね。レイヤーごとに1 つに決めて、一段解像度を上げて、というのを繰り返していきます。ここにあるサンプルも、 1mm、0.5mm、0.2mm といった僅かな違いでも全てモックアップを作っています。
eN scissors / eN
3D プリント出力されたサンプルの一部 はじめに言語化した抽象度の高い粗いものからスケッチ・3D を経て解像度をあげていくということですね。
そうです。ズームして、ズームして・・・を繰り返していきます。限られた時間の中でそのズームしていくプロセスを可能な限り多く、細かく行うという感じですね。僕にとっての「8 割から先」というのは、今回のDouble Wall Glassでいうと、ガラスで試作を行なってからのフェーズにあたります。素材による制約や表情が明らかになるので、それらを踏まえて課題を解決しながら違和感を取り除き、どれだけクオリティを高められるか、という段階ですね。そのフェースが8割に満たないときもありますが。徐々に後戻りができなくなってきて緊張感が増してくると同時に、現実味が高まってくる楽しい時間ですね。
中編では、今回の Double Wall Glass についてお話を伺っていきます。




