Vol.32 【Double Wall Glass デザインのはなし 後編】DESIGN FOR INDUSTRY

Vol.32 【Double Wall Glass デザインのはなし 後編】DESIGN FOR INDUSTRY

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毎日の暮らしのなかで使いやすい Double Wall Glass。そのデザインを手掛けられた北川大輔氏にデザインの裏側について、LIFEWORKPRODUCTS(以下 LWP)のデザインディレクターとの対談というかたちでお話を伺いました。後編ではデザイナーとして大切にされていることなどをお聞きしていきます。 

イラスト:阿部愛美、写真:&design、テキスト・編集:吉田恵梨子(LWP 編集部)
  • 北川大輔(きたがわ・だいすけ)

    1982 年滋賀県生まれ。2005 年に金沢美術工芸大学を卒業。家電メーカーを経て、2015 年に株式会社 DESIGN FOR INDUSTRY を設立。関わる全ての人とともに分かち合える“喜び”を創り出すことを信条に、家具や日用品から伝統工芸、家電、ロボット、先端技術研究開発、新素材開発、ビジネス開発、都市ブランディングなど国内外問わず多彩な領域にて、“心地よい革新”という視点のもと、デザイン・クリエイティブディレクションを行う。 

  • 宮沢哲(みやざわ・てつ)

    「LIFEWORKPRODUCTS」ディレクター。国内外のインハウスデザイナーを経て、2007 年にアンドデザインを設立。2011 年より NTT ドコモ プロダクトデザインディレクターを兼務。 

宮沢 :

今回の Double Wall Glass を一言で表すとどんな言葉になりますか。 

北川 :

そうですね。ストレスのない「ふつうのダブルウォールグラス」でしょうか。濡れず、冷めず、飲み物も薄くならない。ストレスがない。そしてそれらを誇張しない。とても「ふつう」です。実は開発中、このグラスをずっとそう表していました(笑) 

“ふつう”のダブルウォールグラス  
 

 

宮沢 :

今までなんでなかったんだろう?というかたちですよね。製造するのが難しいからという理由だとは思いますが。「ふつう」とは、昔からみんなの中に持っている集合知のようなカタチのことですね。何年でも大切にしたいと思えるものともいえるかもしれません。 

北川 :

LWP のコンセプトに「使い尽くす道具」という言葉がありますが、ある程度を超えて突き詰められたたもの、人や環境に寄り添い長く親しまれるもの、がそれになり得ると思っているんです。そういったものが「道具」となり、「ふつう=典型」と呼べるものになるかなと。そんな「新たな典型」と呼べるものをつくることは、プロダクトをつくる上でのひとつの目指す方向性だと思っています。

宮沢 :

ぜひ詳しく教えてください。 

北川 :

昨今、サステナブルが謳われていますが、プロダクトにおける究極のサステナブルというのは、いつまでも使えるもの、捨てられないものだと思うんです。価値が減衰しないものともいえます。僕の好きな言葉のひとつに「Extraordinary」(意:優れた、並外れた)という言葉があります。そこから少し意訳的な解釈が入りますが「Extra-ordinary」、つまり「超越したふつう、特別な日常」をつくりたいと思っているんです。本当に考え抜かれた「ひとつ上のふつう」=「新たな典型」です。

宮沢 :

なるほど。プロダクトデザイナーの使命として愛着を持てるものをつくることがある。LWP では、買っていただいて、数年後にもう一度買い足せるという世界をつくりたいんですよね。大量に供給してどんどん廃盤にしていってしまう世界ではなく、仮に少量であっても欲しいと思ってくださる方にきちんと届けたい。 

北川 :

そうですね。ただ、プロダクトやものづくりの産業としては、ものがしっかりたくさん売れることも大切だと僕は思っています。もちろん、考えなしに闇雲にたくさんつくって売る、というような強制的な供給はよくない。しかしながら必ずしも大量生産は悪ではなく、誠実に考えられ、適切につくられたものは、より多くの人の手に渡ってほしいと思っているんです。

宮沢 :

考え抜かれた“量産”には意味があるということですね。

北川 :

“正しい量産”というものをみんなで話せたらよいですよね。大量生産は社会課題ではありますけれど、ネガティブ偏重にはしたくない。フラットなスタンスでプロダクトデザイナーという役割を担いながら、より広く、より多くの人に愛着を持ってもらえるものを届けていきたいと思っています。 

話題はプロダクトから産業へ

 

宮沢 :

ブランドには、それぞれの役割であったり向き合い方や取り組む姿勢がある。それぞれが真剣に考えていくべきですよね。いまのお話に関連して、デザインで特に大切にしていることがあれば教えてください。 

北川 :

企業、工場、職人がこれまでやったことがないことに一緒に挑戦し、実現したいということでしょうか。それは決して斬新なものをつくりたいという利己的な意味ではなく、新しいことを挑戦しそれがかたちになれば、技術革新となり知的財産となって企業、工場、職人がそこからさらに先の可能性を創っていけると思っているんです。

宮沢 :

それはスタジオの名前にも通じそうですね。 

北川 :

そうですね。僕は自身のスタジオの名を、DESIGN FOR INDUSTRY としています。20 年前頃、日本のものづくりが終焉を迎えてこれからは中国に移っていくという話が各所でありました。僕の実家は、父も祖父も製造の自営業だったので、幼い頃からものづくりに触れてきたんですが、社会人になりインダストリアルデザイナーとして工場に立ち会いに行ったときに、その現場にいる人たちがかたちにしてくれるからこそ自分のデザインは人の手に届くと改めて強く実感しました。

宮沢 :

幼少の頃の経験から“いま”がつながっているのですね。だからこそ考えられることもあると。

北川 :

日本のものづくりの終焉と煽る風潮は許せないし、これまでのことに感謝もある。だからこそ、ユーザーや社会や環境はもちろんのこととして、クライアントのためにデザインがしたいと思っています。技術革新のこともそうです。自分がデザインしたものが売れて、業績が上向きになる、従業員にボーナスが出せる、新しい設備を導入できる、新たな雇用が生まれる、そしてそれらを通じて、地域や産業の発展に貢献したい。そう思っています。 

北川さんのスタジオ名 

 

 

 

 

宮沢 :

デザインに対して、そして産業やものづくりに対しても、ひたむきなまなざしを感じます。

北川 :

ライフという意味では、人は1日何時間も働いています。自分のデザインに関わってくださる方々の少なくない労働時間をより豊かで誇らしいものとなるよう貢献したいとも思っています。だからこそ、少し難しく挑戦的なことをクライアントや職人の方々にわざとお願いすることもあります。関わってくださる方々の「やりたいこと、やれること」をクリエイティブの力で押し広げたい。そういう想いを根っこに持ちながらクリエイティブ/デザインの側面から携わらせて頂いています。そんな想いからスタジオの名前を「DESIGN FOR INDUSTRY=産業のためのデザイン」としています。

宮沢 :

その姿勢がデザインのプロセスにも通じているのですね。ものづくりに対する高い責任感のような、売ることにしっかりとした責任を持つような。そんな思いを感じます。 

では、LIFEWORKPRODUCTS にちなみ、北川さんにとっての“ライフワーク”を教えてください。もしくはここだけは外したくないということを教えてください。 

北川 :

外したくないものとしては、「リスペクト」でしょうか。声をかけてくださる人や企業、グラスをはじめ自分のデザインを実現してくれる工場や職人、関わってくださる関係者、もっと言えば友人や家族に対しても「リスペクト」は外したくないですね。それがなくなると傲慢で主観的で利己的になってしまいますし、そういうのは透けて見えてしまいますよね。相互にリスペクトがあってこそ健全な関係といえる。人に対してもデザインに対しても、できるかぎり「清く正しく美しく」ありたいと思っています。

一つひとつに丁寧に答えてくださる北川さん 

 

 

宮沢 :

少し気が早くもありますが(笑)、LWP と再びコラボレーションするならば、どんなプロダクトをつくりたいですか。 

北川 :

大きくは 2 つあります。ひとつは、最初に声をかけていただくきっかけになった「機能しないインテリアオブジェクト」。今回のプロジェクトを経たからこそ、改めて考える気持ちや土壌が培われたと思います。もうひとつは、ペンとヤカンですね。グラスの次に今の自分の生活のなかで欲しいけれど世の中によいものがないもの、見つけられていないものとして。 

宮沢 :

個人的には生活の道具のなかで数百円で買えるものがプロダクトデザインの頂点だと思っていたりします。有名な 100 円ライターやペンのように、完成度が高いゆえに特徴がなく引っ掛かりがない。使いやすいから結局、無意識に手に取ってしまうもののような。 

北川 :

ですね。極論、ボールペンというものを意識しないことだと思うんです。目的は字を書くことですから。ダブルウォールグラスもそういう思いから考え、デザインしました。それが「ストレスがない」ということかなと。 

宮沢 :

ヤカンにたどり着いたのは? 

北川 :

とあるヤカンを使っているんですが、ドバッと流し込めるなどの機能面はよいけれど、シルエットや細かいところが気になるというか。こどもの頃に実家で使われていた金色のヤカン然り、気兼ねなく使える「道具」としての機能はいいけれど、もう少し“整える”と更に良くなると思うんです。 

宮沢 :

わかります。「ヤカン」という存在と、いまの都会的な暮らしや風景とのズレもありますよね。少し工芸のテイストが残っているというか。 

北川 :

そうですね。工芸的な部分は嫌いではなくむしろよさでもあると思うのですが、道具としてのヤカンはもう随分更新されていない印象といいますか。一方でモダナイズされたものはデザインされ過ぎといいますか。 

宮沢 :

こういう話は時間がいくらあっても足りないですね(笑)こちらはまた改めてお話しさせてください。

本日はお時間をいただきありがとうございました。 

北川 :

是非よろしくお願いします(笑)

こちらこそ、本日はありがとうございました。

 

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